教育新聞(教育新聞社)のアートマイル連載3回目は、アートマイルの成果と展望についてです。
【連載】世界につながる壁画作成 アートマイル
第3回 7月25日(月) 「アートマイルの成果と展望」
【寄稿文】 ジャパンアートマイル 代表 塩飽 隆子
アートマイルの特徴は、海外のパートナー校と共通のテーマで協働学習をした後に、成果物として壁画を共同制作することである。壁画の完成という明確なゴールがあることで、そこに向かう全ての学習活動に必然性が生まれる。
交流が、「目的」ではなく、相手と学びを共有するための「手段」であるため、子どもたちは「自分のことをもっと知って欲しい、分かってほしい。相手のことをもっと聞きたい、知りたい」と学習に意欲的になる。この知的欲求は、コミュニケーション力を高め、表現力を高める。
活動に参加したある小学校の教諭は、「子供たちはこれまでの調べ活動よりもずっと積極的に関わり、工夫して自ら発信するようになりました。英語による説明や絵の説明も、回を重ねるごとに大切なことだけを大きく言ったり、描いたりするようになりました。」と振り返る。
人は、異質なものに出会ってものを考え始め、外の世界に触れて内なる自分に向き合うものである。中学生以上になるとアートマイルが自己変革のきっかけにもなる。
「日本人は遠慮をして自分を出すのを控え目にする傾向があります。私も今までは自分を表現することはあまり印象が良くないと思っていました。しかし、海外の相手に自分の考えを伝えていくうちに、今は逆に気持ちの良いことだと思えるようになりました。自分を表現することが私にとってこれから重要な課題になりそうです。」これは参加した高校生の感想である。
教師もまた、アートマイルで意識が変わる。国際交流学習を研究している清水和久准教授(金沢星稜大学)によると、アートマイルがきっかけで教師自身が外国に興味を持つようになり、未知への探求心が深まるという。また、交流中に発生する様々な問題を障害と捉えず課題として前向きに捉えて工夫することで、主体的に問題を解決する力がつくという。
アートマイルで心が繋がってプロジェクトの活動を超えた交流へと発展することもある。昨年パキスタンの子どもたちと交流した小学生は、パキスタンが洪水被害を受けたことを知って自主的に募金活動を行った。この活動を通して、“パキスタンの人々のために”から“世界の人々のために”と子どもたちの視点が世界へと向かい、その中に自分を位置付けて、世界のために自分が役に立つことをしていきたいと考える児童が見られるようになったという。
また、3月に起きた東日本大震災後に海外の学校から日本の学校に多くの祈りのメッセージや励ましの手紙が届いた。日本の参加者はアートマイルで世界の人々と心が繋がったことに感動した。
JAMは、日本人として誇りを持ち、世界に目を向けて広い視野で問題を捉え、自分の意見をしっかりと持って世界の人々と共に未来を築く次世代を育てることを目標としてプロジェクトを展開している。世界の人々と協働する原体験を多くの子どもたちにしてほしい。